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最高裁判所第一小法廷 昭和47年(オ)817号 判決

主文

理由

上告代理人宮島優の上告理由第一点について。

所論の口頭弁論調書につき、仮りに所論のような加筆、訂正があつたとしても、本件記録に徴し、本件訴訟の経緯に鑑みれば、これが第一審判決の結論に影響を及ぼすものでない旨の原審の判断は、正当として首肯することができる。また、本件記録に編綴されている第一審における第七回および第八回の口頭弁論調書には、裁判官および裁判所書記官の署名押印があり、これが仮りに所論のように書き直された後の調書であるとしても、その一事をもつてしては、無効な調書ということはできない。所論引用の最高裁判決は、事案を異にし、本件に適切でない。原判決に所論の違法はなく、論旨は、ひつきよう、独自の見解に基づき原判決を攻撃するものであつて、採用することができない。

同第二点ないし第四点について。

原審が適法に確定した事実によれば、上告人浅沼猛雄は本件建物を訴外安部重太郎に譲渡したというのであるから、これがたとえ所論のように譲渡担保に供する趣旨のものであるとしても、特段の事情の存しないかぎりは、右建物の敷地賃借権も右の趣旨で右訴外人に譲渡されたものというべきである(最高裁昭和三七年(オ)第七六五号同三九年一二月一一日第二小法廷判決・民集一八巻一〇号二一二七頁参照)。そして、右訴外人が本件各建物につき訴外東京西南信用組合のため根抵当権を設定し、昭和四二年八月三〇日その旨の登記を経由し、その根抵当権の実行により被上告人が競落代金を支払つて右建物の所有権を取得し、その所有権移転登記を受けたことは、原審が確定するところである。ところで、譲渡担保権者が担保の趣旨に反しその目的物を処分しても、その処分行為は、特段の事情の存しないかぎり、有効であると解すべきものであり、また、地上建物が抵当権の目的となるときは、原則として、その敷地賃借権にも当該抵当権の効力が及ぶことは、当裁判所の判例(昭和三九年(オ)第一〇三三号同四〇年五月四日第三小法廷判決・民集一九巻四号八一一頁参照)とするところであるから、被上告人は、上告人浅沼猛雄に対する関係においては、右建物の所有権を取得することによつて、その敷地の賃借権をも取得したものというべく、したがつて、同上告人は、被上告人に対する関係においては、右賃借権を訴外安部重太郎に譲渡することによつて失い、現に、右賃借権を有しないものといわざるをえない。このことは、被上告人による右賃借権の取得につき賃貸人である訴外梅原繁雄が承諾を与えたと否とによつて左右されるものではない(前記の最高裁昭和四〇年五月四日第三小法廷判決参照)。

また、所論のように、上告人浅沼猛雄が昭和四四年一一月二四日訴外安部重太郎に対し本件各建物につき再売買予約の完結権を行使したとしても、右建物については、それ以前すでに、訴外東京西南信用組合のために、根抵当権が設定され、その登記を経ていること前示のとおりであるから、右完結権の行使によつて同上告人に復帰する右建物の所有権および敷地賃借権は、右根抵当権によつて制約されたものであり、したがつて、右完結権行使の有無も、前示の判断を左右するに足りない。右と同旨の見解のもとに、上告人浅沼猛雄の本件反訴請求を棄却すべきものとした原審の判断は、正当として首肯することができる。所論引用の最高裁判決は、事案を異にし、本件に適切でない。原判決に所論の違法はなく、論旨は、ひつきよう、独自の見解に基づき原判決を攻撃するものであつて、採用することができない。

(裁判長裁判官 下田武三 裁判官 大隅健一郎 裁判官 藤林益三 裁判官 岸 盛一)

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